海外巡検は3度目の参加でしたが,一昨年のアドリア海諸国では石灰岩地形と地中海気候を,昨年の韓国では大陸の花崗岩地形と冷帯大陸性湿潤気候を,今年はチャオプラヤー川のデルタ地形とサバナ気候を体験することができ,それぞれ刺激的な印象をうけました。
さて,なにをテーマに報告するかですが,個人的にまとめた報告書の進捗状況から,もっとも観光的な水上マーケットをとりあげてみます。
図1.水上マーケットのようす(1) 図2.水上マーケットのようす(2)
図1,2は,ダムヌンサドゥアクという,バンコクからおよそ80㎞ほどのところにある郡?にある水上マーケットのようすです。
図3のように,ダムヌンサドゥアクは,メークロン川河口から20㎞ほど内陸ですが,標高は海抜6~7mで,町の中を網状に水路がめぐらされています(図4)。
メインとなるダムヌンサドゥアク運河は,バンコクから当地域まで一直線に続く幹線水路で,これは,ラーマ4世の時代に,バンコク湾沿岸の灌漑を目的に掘られたようです(1866-1872年)。もちろん水運にも利用されていたはずです。
図4.ダムヌンサドゥアクの水路網 |
その後,各地域ごとに支川網が掘られたと考えられますが,現在,ダムヌンサドゥアクで伝統的な水上マーケットを見ることができます。これは観光目的でとくに整備されたものですが,なぜ当地がとくに選ばれたのかが疑問として残ります。推定ですが,ダムヌンサドゥアクは,バンコクからメークロン川までの運河の終(起)点としての機能があり,とくに水路網が発達していたからではないかと考えています。
現在,水路の利用が減少していることはもちろんですが,観光目的以外に,まだ生活の一部として利用されています。たとえば,本来の目的であるバナナ,ヤシ類,マンゴーなどの灌漑水路としてのほかに,水上マーケットでの主婦の買い物(図5)や,ココヤシの出荷(図6),漁労(図7),洗い物用の中水としての利用などが観察できました。
しかし,Google Earthで見ると,やはり道路網が整備されてきていることが明らかで,家が水路に面していても,裏手には車道がひかれていることが多いようです。まもなく,人々の生活から水路は離れていくと考えられます。
図6.ココヤシの集積・荷出し場 |
周辺の標高は海抜数mあるとしても,運河の水面からはゼロメートル地帯に近いため,運河の自然環境の変化が直接周辺の土壌環境に影響を与えることが懸念され,人々の目が水路から少しでも離れることが心配です。
まだまだ先の話のようでも,私たちの国がたどってきた水環境の歴史変化もあっという間のできごとでしたので,気になりました。
近年の観光には,そのような変化をチェックする役割も期待されていると思います。大切に育ててほしいと思いました。
図7.水路での漁労のようす |
ダムヌンサドゥアクは,水上マーケットを素材にした地形,地質,土壌,気候,植生,農業などに関連する地理的テーマが考えられ,興味の尽きない一級の観光地でした。
(River)
ラベルの漢字が間違ってます 「巡検」命とも言える漢字ですむ
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