この間には,自分の新しい目的を目指して,あるいは,不本意ながらも新しい道を選ばなければならなかった同志もいましたが,彼らが残してくれた業績を忘れることはありません。諸先輩方を含め,彼らの業績の上に,今,私たちができることは,これまでと同様の日々の活動しかないように思います。
あれっ? なんでこんな固いこと書いてしもたんやろ?
そうではなく,タイ巡検の話です。
今回は,タイの農地と住宅の,配列の形状について紹介します。
図1.バンコク近郊の水系と農地 (加筆した白線は,図中に確認できた水系) |
農地は,網状の水系に逆らうことなく,一見無秩序ですが自然な形で区画されているようにみえます。
図2.タイ南部の灌漑施設周辺の水系と農地 |
ここは近年,King Project と呼ばれる灌漑事業が行われています。これによって大規模な水田が作られています。周辺の田圃の区画と明瞭な違いがみられます。たとえば,伝統的な地域では少し短冊形で,方向も微妙に異なりますが,土地改良区では正方形に近く,方向も均一です。さらに,旧水田の広さはさまざまですが,新水田では極めて狭く同等に統一されています。
これは,水の管理をしやすくするとともに,事業後,土地を等価交換しやすいようにしたためだと思われます。
さらに,この周辺ではホワイトタイガーの養殖が行われていまして,地形とマングローブ林の環境とエビ養殖の関係とが興味深いのですが,はここでは省略します。
図3.バンコク近郊の農地と新興住宅と水路 |
自然に近い河川と人工的な運河の利用の違いが見られ,運河沿いの農地はたいへん細長い形をしています。一方,新興住宅はその農地を買い取って開発されるため,同様に細長くなり,空中写真でみますと,まるで百軒長屋のような形状を呈しています。また,住宅は連続して配列しているのではなく,中に1枚の田圃を残しているようです。これはもちろん水管理や防災のためだと思いますが,図らずも(図ってかもしれませんが),景観をはじめ,住環境にすばらしいことだと思いました。
また,ほとんどの主な運河の横には,近年整備されたと思われる幹線道路が建設されています。多くの場合,幹線道路の運河側は旧集落であり,新住宅は外側に建設されています。エリア的には道路一本離れているだけなんですが,なにぶん道幅が広く,地区共同体として共存できるのか,少し疑問を感じました。以前も運河で隔てられていたはずですが,各家庭は小舟を所有していて行き来には何の不便もなく,何より景観(この場合は固有文化・経済)が連続しているため,運河を挟んで一つの共同体だったことは当然です。私たちのような行き掛けの観光者ではよくわかりませんが,これから,バンコク郊外の集落が水路と道路をどのように利用し,どう変化していくのかを考えるうえで,一つの起点としての観察を行うことができました。
最後に前回紹介しましたダムヌンサドゥアクの事例も取り上げたかったのですが,図は前回示しましたので省略します。今回の紹介は以上です。(River)
※.春山成子(2009)「東南アジアの自然環境の基礎」:春山成子・藤巻正己・野間晴雄編『朝倉世界地理講座3東南アジア』朝倉書店,451P,pp.3-11
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